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満洲サマンの最後の祈りが見えてくる

金 大偉 (監督・音楽・撮影・製作)

本作品は、前作『ロスト マンチュリア サマン』(2016)に引き続き、現存する 満洲サマンたちの思いや考え方について記録し、再び彼らが天神へ祈るために 行った貴重な儀式の模様をカメラに収めることができた。その代々受け継がれ てきた伝統儀式は、満洲族の魂や精神であり、自己再生へのアプローチであ り、失われゆく文化を守るための意志でもあったに違いない...と思った。私は できる限り、その儀式の流れを追って撮影し、その記録を映画に納めていっ た。

満洲の伝統文化を求めて、約9年間の時間を経て、様々な困難を乗り越えて、 ついにこの映画が完成した。大きな視点から見れば、私の内面も大きく変化し たのであろう。失われゆく満洲サマンの世界や失われゆく満洲語の世界におい て、もう二度と撮れない貴重な映像を撮影出来たことによって、自分の存在意 味及び民族の存在意味と在り方が段々見えてくる。

また映画の中で使用されている音楽は、現地でサマンたちの神歌や子守唄のパ ーツを録音し、再構成や再作曲によって新しい楽曲が生まれた。ある意味で未 来へと繋がり、文化の伝承作業を果たすことが出来たと思う。

こうして、失われゆく満洲シャーマニズムを辿る旅を通して、映画の制作全体 を通して、作品の中に、私の思いだけではなく、参加した全ての人々の思いを も込められている。作品を制作すること自身は、一種の共同体の融合であり、 調和と共存と共生の行為であり、多くの異文化を理解するための重要な手掛か りであるとも言える。

カオスと化した先の見えないこの時代に、満洲サマン文化だけではなく、ユー ラシア大陸全体の視野からみれば、サマンの伝統文化が変容し、失われつつあ るのだ。それでも微かに、天と人間を繋ぐサマンの力が残っているようにも見 える。天空の光が煌めく中において、人々が幸福のため、天空の神々や先祖か

ら啓示を受ける時に、満洲サマンの最後の祈りが見えてくる。あるいは最後の 魂の叫びが聞こえてくる。

金 大偉(きん・たいい)​ Profile

 中国遼寧省生まれ。父は満洲族の中国人、母は日本人。来日後、独自の技法と多彩なイマジネーションによって音楽、映像、美術などの世界を統合的に表現。近年は様々な要素を融合した斬新な空間や作品を創出している。

 音楽CD『Waterland』('97)、『新・中国紀行』('00)、『 龍・DRAGON 』('00)。また中国の納西族をテーマにした『TO MPA東巴』('03〜'07)シリーズ3枚を発売。『冨士祝祭〜冨士山組曲〜』('14)、『鎮魂組曲2 東アジア』('17)、 『マンチュリア サマン』('18)など23枚リリース。

 映画監督作品は、『海霊の宮』('06)、『水郷紹興』('10)、『花の億土へ』('13)、『ロスト・マンチュリア・サマン』('16)、アート映像『シマフクロウとサケ』('21)など多数。また自身の表現世界や創作への思想などを まとめた著書『光と風のクリエ』('18)などがある。最新映画は、失われゆく満洲族の文化をテーマにした『天空のサマン』('23)。アイヌ文化と民族の共生をテーマにした『大地よ』('23)。

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●金 大偉オフィシャルサイトhttp://www.kintaii.com

​●金 大偉文化アートチャンネルhttps://www.youtube.com/@user-fd9ty3xr6z/videos

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